結論
- 公的資料が共通して示しているのは、「長くする」「サービスごとに変える(使い回さない)」「定期的な変更は不要で、漏れたと分かったらすぐ変える」「多要素認証を設定する」 の4点です。
- サービスごとに違う長いパスワードは覚えきれないので、「どこに記録するか」を先に決めます。方式は、OSやブラウザに組み込まれた機能、専用のパスワード管理ソフト、紙、の3つです。
- 2要素認証は、どの方式でも設定しないよりは守りが厚くなります。そのうえで方式には差があり、米国NISTの指針はSMS・音声通話による方式を「制限つき(RESTRICTED)」と位置づけています。選べるなら、認証アプリ、さらにパスキーやセキュリティキーを優先します。
1. 公的資料は何と言っているか
| 論点 | 総務省「国民のためのサイバーセキュリティサイト」 | IPA | NIST SP 800-63B(米国) |
|---|---|---|---|
| 強さ | 他人に推測されにくく、機械的に割り出しにくいもの。名前・生年月日・辞書の単語・同じ文字の繰り返し・短い文字列は避ける | 「できるだけ長く」「複雑で」「使い回さない」 | 利用者が決める場合は8文字以上(2025年8月の改訂版 SP 800-63B-4 では、パスワードだけで認証する場合は15文字以上、多要素認証の一部なら8文字以上)。文字種の混在などの構成ルールは課さない |
| 使い回し | 複数のサービスで使い回さない。流出した情報が他のサービスへの不正ログインに使われる | 複数サービス間で使い回さないことが重要 | 新しいパスワードは、よく使われる値・漏えい済みの値の一覧と照合する |
| 定期変更 | 不要。流出時に速やかに変更する。定期変更はパターン化や使い回しを招く | — | 定期的な変更は求めない。侵害の証拠があるときに変更させる |
| 多要素認証 | 知識・所持・生体のうち2つ以上を組み合わせる認証の利用を勧める | 多要素認証の設定を推奨し、主要サービスの設定手順を掲載 | 方式ごとに要件を定める(次節) |
IPAの「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン」(第4.0版)も、基本の6か条の1つに「パスワードを強化しよう!」を挙げています。
NISTの指針はサービスを運営する側に向けた文書です。SMS・音声通話を「制限つき」とする扱いは、2025年8月の改訂版でも同じです。
2. パスワードをどこに記録するか
| 方式 | 内容 | 向いている場面 | 確認しておく点 |
|---|---|---|---|
| A. OS・ブラウザに組み込まれた機能 | 端末やブラウザのアカウントに保存し、同じアカウントの端末間で同期する | 1人で、同じ系統の端末だけを使う | そのアカウント自体の2要素認証。端末を失くしたときの復旧方法 |
| B. 専用のパスワード管理ソフト | 保管庫を1つのマスターパスワードで守る。1Password、Bitwarden など | 複数人で一部を共有する。OSやブラウザが混在する | 共有の単位、退職・契約終了時の取り消し方、書き出し(エクスポート)の可否 |
| C. 紙 | 手帳などに書いて施錠して保管する | オンラインに置きたくないものが少数ある | 保管場所、写しの有無、持ち歩かないこと |
「人数」「端末の混在」「共有の必要」で決まります。混ぜて使って構いません(日常のものはAかB、復旧用のコードはC、など)。
3. 2要素認証の方式の違い
| 方式 | 仕組み | 偽サイトに入力させる手口への強さ | 注意点 |
|---|---|---|---|
| SMS・音声通話のコード | 電話番号あてに届くコードを入力 | コードを偽サイトに入力すると突破されうる | NISTは「制限つき」と位置づけ、代わりの方式の提供を求めている。電話番号を変えるときに移行が必要 |
| 認証アプリ(TOTP) | サービスと端末が共有した秘密の鍵と現在時刻から、短時間だけ有効なコードを計算する(RFC 6238。時間の刻みは30秒が推奨の既定値) | コードを偽サイトに入力すると突破されうる | 機種変更の前に移行手順を確認する。復旧用コードを保管する |
| パスキー | 公開鍵暗号にもとづく。秘密鍵は端末から出ず、端末のロック解除(生体認証やPIN)で承認する | FIDOアライアンスは「フィッシングに耐性がある」と説明している | 端末間で同期されるものと、1台の端末に結びつくものがある。どこに保存されるかを把握する |
| セキュリティキー | USB等で接続する専用の機器に鍵を持たせる(端末に結びつくパスキーの一種) | 同上 | 紛失に備えて予備を登録する |
選ぶ基準は次の順です。
- そのサービスが対応している方式の中から選ぶ
- パスキーまたはセキュリティキーが使えるなら優先する
- 次に認証アプリ
- SMSしか無いなら、SMSでも設定する(総務省・IPAはいずれも、多要素認証を利用すること自体を勧めています)
4. 小さな会社の決めごと1枚(書き込んで配る形)
下の表を埋め、関わる人全員に同じものを渡します。左の列は1〜3節の公的資料に沿った決めごと、右の列が自分たちで決める中身です。
| 決めごと | うちの場合(記入) |
|---|---|
| パスワードはサービスごとに別のものにし、長くする | 長さの下限: 文字 |
| パスワードを記録する場所は1つに決める(2節のA・B・C) | 記録する場所: |
| 定期的な変更はしない。漏えいの連絡を受けたら、そのサービスをすぐ変える | 連絡を受けたときに知らせる相手: |
| 2要素認証を、メール → ドメイン・DNSの管理画面 → 銀行・決済 → 会計・請求 → クラウドストレージ → SNS の順に設定する | 設定が済んだところ: |
| 方式は、パスキー・セキュリティキー → 認証アプリ → SMS の順に、使えるものを選ぶ | 例外のサービス: |
| 復旧用コードは、端末とは別の場所に保管する | 保管場所: |
| 機種変更の前に、認証アプリ・パスキーの移行手順を確認する | 次の機種変更の予定: |
| 共有アカウントは利用者を書き出し、人が抜けたらすぐパスワードを変える | 共有アカウントと利用者: |
メールを最初に守るのは、ほかのサービスのパスワード再設定がメールに届くためです。人の入れ替わりの場面では、共有アカウントの洗い出しが後回しになりやすいので、表の8行目は人が増える前に埋めておきます。
5. 確認表
| # | 確認すること | 済 |
|---|---|---|
| 1 | 事業で使うアカウントの一覧がある | □ |
| 2 | 4節の表を埋め、関わる人に渡した | □ |
| 3 | メールとドメイン・DNSの管理画面に2要素認証を設定した | □ |
| 4 | 銀行・決済・会計に2要素認証を設定した | □ |
| 5 | 同じパスワードを複数のサービスで使っていない | □ |
| 6 | 復旧用コードを、端末とは別の場所に保管した | □ |
設定の操作手順はサービスごとに違います。IPAのページに主要サービスの設定手順への案内がまとまっています。
出典(取得日: 2026-09-20)
- 総務省 国民のためのサイバーセキュリティサイト(パスワード・認証の項) https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/cybersecurity/kokumin/security/business/staff/06/
- IPA「不正ログイン対策」 https://www.ipa.go.jp/security/anshin/measures/account_security.html
- IPA「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン」 https://www.ipa.go.jp/security/guide/sme/about.html
- NIST SP 800-63B Digital Identity Guidelines: Authentication and Lifecycle Management https://pages.nist.gov/800-63-3/sp800-63b.html
- NIST SP 800-63B-4(2025年8月の改訂版) https://pages.nist.gov/800-63-4/sp800-63b.html
- FIDO Alliance “Passkeys” https://fidoalliance.org/passkeys/
- RFC 6238 TOTP: Time-Based One-Time Password Algorithm https://www.rfc-editor.org/rfc/rfc6238.html