小さな事業のIT手帖

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判断・選び方

「RAIDだから大丈夫」は間違い。NASが消したファイルを戻してくれない理由

公開 更新 読了13分

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共有フォルダを丸ごと消してしまった。あるいは朝来たら、NASのファイルが全部開けない拡張子に変わっていた。「うちはRAIDだから大丈夫」と聞いていたのに、NASは何も戻してくれません。

これは故障ではなく、仕様です。RAIDはディスクが壊れても止まらないための仕組みで、消えたデータを戻す仕組みではありません。 削除も暗号化も、RAIDにとっては正常な書き込みで、全部のディスクに忠実に反映されます。この記事を読み終えると、自社のNASが何から守られていて何が無防備かを表で確かめられ、足りない分を何で足せばよいかが決まります。

いま消してしまった最中の人は、先にこの4つだけ。 説明は後で読めます。

  1. そのNASに新しく保存しない。 社内に「共有フォルダに保存するのを止めて」と伝えます。消えた場所が上書きされるほど、戻せる見込みが減るからです
  2. NASの管理画面で、ごみ箱とスナップショット(ある時点の状態を残す機能)を見る。 有効になっていれば、ここから戻すのがいちばん早い
  3. バックアップを探す。 NASにつないだ外付けディスク、クラウド、各自のパソコンに残った写し、メールの添付。見つけたら、上書きせず別の場所へ戻します
  4. ファイルが開けない拡張子に変わっていたら、NASと、様子のおかしいパソコンのLANケーブルを抜く。 書き換えが広がるのを止めるのが先です

自分で管理画面に入れないなら、NASを入れた業者に5節の文面を送ります。RAIDを組み直す、ディスクを抜き差しする、初期化する、は戻せない操作です。分からないうちは触りません。

口で言うより見せたほうが早いので、手元の検証環境でRAID 1を実際に組み、経理のフォルダを消してみました(実機のNASではなく、多くのNASの中身と同じ仕組みである Linux の mdadm です)。見るのは最後の [2/2] [UU]。ディスク2台とも正常、という表示のまま、RAIDは何も警告しません。

rm -rf でフォルダを消した後、ls には lost+found しか無く、/proc/mdstat は [2/2] [UU] の正常表示のまま
RAIDが正常([UU])のままフォルダを消した。RAIDは何も警告しない(検証環境・撮影 2026-09-20)

「もう片方のディスクには残っているのでは」と聞かれます。RAIDを止めて、ミラーの片方ずつを単独で読みました。どちらにも、消したフォルダはありません。

RAIDを止めてミラーの片方ずつを単独で読んだ ls の出力。vda にも vdc にも消したフォルダは無い
ミラーの片方ずつを単独で読んだ結果。「もう片方のディスクには残っている」は起きない(検証環境・撮影 2026-09-20)
この記事で出来ること
自社のNASが何から守られ、何が無防備かを表で確かめ、足りないバックアップ先を決められる。業者のRAID提案に聞き返す問いが持てる
前提
NASの管理画面に入れること(RAIDの方式と通知の宛先を見るため)
所要時間
読んで確認表を埋めるまで30分。復元テストは10分

先に結論:私ならこう組みます

  • 10〜20人までの会社なら、2ベイのNASをRAID 1で組み、外付けディスクへの世代つきバックアップと、クラウドへのバックアップを足す。 これで足ります。人数は私の目安です。
  • 4ベイ以上のRAID 5/6を勧められたら、「なぜその台数が要るのか」と「1台壊れたときの再構築に何時間かかるか」を聞く。 答えが出てこない提案は、容量を大きく見せているだけです。
  • 予算が限られるなら、ベイ数を増やすより先にバックアップ先に使う。 RAID無しの1ベイ+バックアップ2つのほうが、RAID 6でバックアップ無しより、データは安全です。
目次(6)
  1. 1. 何から守れて、何から守れないか
  2. 2. NASを3-2-1で数えると、コピーは1つ
  3. 3. よくある事故の型
  4. 4. RAIDレベルの定義(SNIAの用語集)
  5. 5. 確認表と、業者に送る文面
  6. 出典(取得日: 2026-09-20)

1. 何から守れて、何から守れないか

起きることRAID(冗長化)バックアップ(世代あり)
ディスクが1台壊れた守れる(動き続ける。RAID 0を除く)戻せる(戻すまで止まる)
耐えられる台数を超えてディスクが壊れた守れない戻せる
ファイルを誤って消した・上書きした守れない(変更がそのまま反映される)戻せる
マルウェアにファイルを書き換えられた守れない(同上)戻せる。ただし、NASから常に書き込める場所に置いたバックアップは一緒に書き換えられることがある
NAS本体(電源・基板)が壊れた守れない。ディスクが無事でも、別の機器でそのまま読めるとは限らない戻せる
盗難、火災、水害、落雷守れない建物の外にあれば戻せる

RAIDが守るのは1行目だけです。検証環境でディスクを1台故障させた直後がこれです。[2/1] [U_] と clean, degraded(縮退)が「1台欠けたまま動いている」の表示で、下のほうでファイルが読めている点を見てください。

mdadmでディスク1台を故障させた後の /proc/mdstat が [2/1] [U_]、mdadm --detail が State : clean, degraded、vdb が faulty と表示され、ファイルは読めている
RAID 1 のディスク1台を故障させた直後。縮退([U_]・degraded)してもファイルは読める。RAIDが守るのはこの場面(Linux mdadm の検証環境・撮影 2026-09-20)

小さな会社で実際に多いのは、上から3行目と5行目です。ディスクの故障より、人が消す事故と、NAS本体が先に寿命を迎える事故のほうがよく起きます。RAIDはそのどちらにも効きません。

US-CERT(現CISA)の資料は、上書きしていく方式のバックアップが、原本の破損やマルウェアをそのままバックアップへ広げることがある、と注意しています。NASの機能で別の場所へ「同期」しているだけの構成も同じ性質を持ちます。**過去の時点に戻れること(世代管理)**が、バックアップと呼べる条件です。

検証環境でも確かめました。フォルダを消した日の夜のバックアップ(2026-09-20)には、消えた状態がそのまま写っています。戻せたのは、前日の世代(2026-09-19)が別に残っていたからです。上書きするだけの同期なら、ここで一緒に消えています。

日付つきのバックアップ2世代の ls。消した後の世代には keiri が無く、前日の世代には keiri が残っている
日付つき(世代あり)のバックアップ。消した後の世代には無いが、前日の世代には残っている(検証環境・撮影 2026-09-20)

前日の世代から戻したときの出力です。請求書のファイル3つが戻り、中身も読めています。

lab$ rsync -a /backup/2026-09-19/keiri /srv/share/; ls -l /srv/share/keiri; cat /srv/share/keiri/invoice-1.txt
total 12
-rw-r--r--    1 root     root            21 Sep 20 11:19 invoice-1.txt
-rw-r--r--    1 root     root            21 Sep 20 11:19 invoice-2.txt
-rw-r--r--    1 root     root            21 Sep 20 11:19 invoice-3.txt
(後略。このあとに1つ目のファイルの中身が1行表示されます)

NASのごみ箱機能やスナップショット機能は、誤削除にはよく効きます。私も有効にします。ただし同じ筐体の中にあるので、5行目と6行目には効きません。バックアップの代わりではなく、手前の網です。

2. NASを3-2-1で数えると、コピーは1つ

3-2-1ルールは「コピーを3つ、2種類の媒体に、1つは建物の外に」です(3-2-1のバックアップ)。RAIDを組んだNASは、ディスクが何台あってもコピー1つと数えます。同じ筐体、同じ電源、同じ操作で同時に失うからです。

状況原本バックアップ1(手元)バックアップ2(建物の外)足りていない点を見つける問い
共有ファイルの置き場所がNASNAS(RAIDはここに含まれる)NASにつないだ外付けディスク、または2台目のNASへ、世代つきでクラウドのバックアップ、または定期的に入れ替えて別の建物に置く外付けディスクNASが丸ごと無くなった日に、何から戻すか言えるか
NASは各パソコンのバックアップ先各パソコンNASクラウド、または別の建物に置く媒体NASとパソコンが同じ部屋にあるなら、建物の外の1つが無い
NASからクラウドへ「同期」しているNAS—クラウド側に、削除・変更の前の版が残る設定か同期だけでは、誤削除も同期される。版の保存期間を公式ヘルプで確認
NASをやめてクラウドへ移す予定クラウド書き出したコピーを手元に別のクラウド、または別の媒体クラウドに置いただけではコピーは増えていない → NASからクラウドへの引っ越し

バックアップ先を選ぶ基準は1つです。原本と「同時に失う原因」を共有しない場所を選ぶ。 同じ筐体(RAID)、同じ電源タップ(落雷)、同じ部屋(火災・盗難)、常に同じ権限で書ける場所(マルウェア)は、それぞれ同時に失います。

建物の外の1つは、私ならクラウドにします。NASの標準機能で、世代つきのバックアップをクラウドのストレージへ送れる機種が多く、人の手が要らないからです。外付けディスクを週1回持ち帰る運用は、担当者が忙しくなった月に止まり、そのまま誰も気づきません。

3. よくある事故の型

事故の型起き方私ならこうする
「RAID 1だからバックアップは取っている」2台に同じ内容がある=コピー2つ、に見えるコピー1つと数え直す。1節の表を社長に見せる
RAID 5で1台壊れたまま、動いているので放置故障の通知の宛先が未設定か、退職者のアドレス。ランプの色が変わっても誰も見ないやめてください。 1台壊れたRAID 5は、冗長性ゼロで動いているだけです。通知の宛先は個人ではなく役割のアドレスにし、年1回テスト送信する
交換したら、再構築の途中で2台目が壊れた同じ時期に買った同じ型のディスクは、寿命も近い。再構築は残り全台を端から端まで読むので、弱っていた2台目がここで力尽きる交換の前に、まずバックアップが最新かを確かめる。再構築は業務時間外に。4台以上で組むならRAID 5ではなくRAID 6
NAS本体が壊れ、ディスクは無事なのに読めないディスクをパソコンにつないでも、そのままでは読めないことが多い。同じメーカーの後継機に載せ替えれば読める場合があるが、条件はメーカーの公式資料による載せ替えを当てにしない。戻す手段はバックアップだと決めておく
バックアップ用の外付けをつないだまま、一緒に暗号化されたNASから常に書ける場所は、マルウェアからも書ける建物の外の1つを、NASの利用者のアカウントからは消せない場所に持つ
停電で、書き込み中のNASが落ちる無停電電源装置が無い、または連動の設定が無いUPSの容量計算と仕様の読み方
戻したことが無い取ることが目的になっている下の確認表の6

3行目の「再構築」の実物です。ディスクを交換すると、残った1台を端から端まで読んで新しいディスクへ写します。recovery = 20.1% と finish=1.3min が進み具合と残り時間です。検証環境は1GBで、観察のために速度を絞って1分半ほどでした。容量は数千倍になるので、実機の数TBでは数時間から十数時間、冗長性の無いこの状態が続くと見てください(時間は私の見積もりで、機種と負荷で変わります)。

新しいディスクを追加した後の /proc/mdstat に recovery = 20.1% finish=1.3min と進み具合が出て、完了後に [UU] へ戻る様子
ディスクを交換して再構築している途中と完了後。観察のため速度を絞っている(検証環境は1GB。実機は数TBで数時間以上。撮影 2026-09-20)

RAID 0(ストライピング)を業務のNASに使うのは論外です。1台の故障で全体を失います。速度のために選ぶ理由は、事務所の共有フォルダにはありません。

4. RAIDレベルの定義(SNIAの用語集)

提案書や管理画面の用語を確かめるための表です。RAIDは Redundant Array of Independent Disks の略で、ストレージの業界団体SNIAの用語集は各レベルを次のように定義しています(要約)。

レベルSNIAの定義の要約耐えられるディスクの故障
RAID 0連続するデータのブロックを、複数の独立した記憶装置に均等に分散して置く。冗長性は一切提供しない(ストライピング)0台。1台の故障で全体を失う
RAID 1各ブロックを、2つ以上の独立した記憶装置に保存する(ミラーリング)1台の故障ではデータを失わない
RAID 5n個のデータのブロックと1個のパリティを、n+1台の記憶装置にまたがって、データとパリティを交互に配置して保存する1台の故障ではデータを失わない
RAID 6パリティによる保護で、任意の2台の故障でもデータを失わない2台

定義に出てくるのは、どれも「記憶装置の故障」への耐性だけです。削除、上書き、機器全体の故障、盗難、火災・水害は、定義の対象に入っていません。Western Digitalの公式ブログも、RAIDは保存の信頼性を高めるがデータのバックアップと同じものではない、と説明しています。

NASのメーカー独自の方式(容量の違うディスクで組める方式など)は、耐えられる台数をメーカーの公式資料で確認してください。

RAIDが不要という話ではありません。ディスクが1台壊れた日に、業務を止めずに交換できる価値は大きい。役割が違うので、両方要ります。順番をつけるなら、バックアップが先です。

5. 確認表と、業者に送る文面

NASの設定を業者が持っているなら、この文面で聞きます。消してしまった直後は1行目に「【日時】に【フォルダ名】を誤って削除しました。NASには触らずにいます」と足してください。【】を置き換えます。

件名: 【NASの機種名】のバックアップ設定の確認のお願い

【会社名】【担当者名】様

お世話になっております。【自社名】の【氏名】です。
当社のNASについて、次の4点を教えてください。

1. ごみ箱・スナップショットの機能は有効か。有効なら、何日前まで戻せるか
2. NASの外へのバックアップは設定されているか。保存先、世代数、最後に成功した日時
3. ディスクの故障の通知は、誰のメールアドレスに届く設定か
4. バックアップからファイルを1つ戻す手順

2に「設定していません」と返ってきたら、それが今日分かった、ということです。責める話ではなく、2節の表を見せて足す相談をします。

#確認すること記入
1NASのRAIDの方式と、耐えられる故障の台数方式:  /  台
2ディスクの故障の通知の宛先と、最後に通知のテストをした日
3NASのデータの、手元のバックアップ先と世代数
4建物の外のバックアップ先
5バックアップ先は、NASの利用者のアカウントから書き換えられない場所かはい/いいえ
6ファイルを1つ、バックアップから別の場所へ戻して開けた日
7NASの管理者アカウントの2要素認証と、管理者が2人いること

今日やるなら2と6です。2は管理画面でテスト送信のボタンを押すだけ、6は10分で終わります。6が空欄なら、まだ「取れているはず」の段階です。戻す手順は 3-2-1のバックアップ の復元テストの表を使ってください。共有フォルダの権限は 共有フォルダの権限設計 にまとめています。

出典(取得日: 2026-09-20)

この記事は特定の製品の使用レビューではありません。公式仕様と公的情報をもとに整理しています。 ・仕様の取得日

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