NAS・ファイルサーバからクラウドストレージへの引っ越し全体図

小さな事業のIT・バックオフィス公開

この記事は特定の製品の使用レビューではありません。公式仕様と公的情報をもとに整理しています。 ・仕様の取得日

結論

  • 引っ越しは 棚卸し → 権限の設計 → 移行方式の選択 → 並行期間 → 切替 → 旧機器の処分 の6工程です。コピーの作業は3番目からで、前の2つを飛ばすと、移した後に「誰が何を見られるのか分からない」状態が残ります。
  • 戻せない工程は最後の「旧機器の処分」だけです。それまでは旧機器を読み取り専用で残しておけば、いつでも元に戻せます。処分を急がないことが、全体の安全弁になります。
  • クラウド側には、ファイル数・パスの長さ・使えない文字などの上限があります。上限は事業者ごとに違い、変わることもあるので、移す前に公式の制限ページを自分で開いて確かめる工程を棚卸しに入れます。
  • 権限は「今の設定をそのまま運ぶ」より「移行を機に作り直す」ほうが、小さな会社では後の管理が軽くなります。理由は3節に書きます。

この記事は全体図です。権限の決め方は 共有フォルダの権限設計、アカウントの土台は AD/Entra ID/何も入れないの判断表 に分けています。

1. 全体図:6工程と、戻せるかどうか

工程やること戻せるか省くと起きやすいこと
1棚卸し容量、ファイル数、深い階層、長いパス、使われていないフォルダ、今の権限を調べる戻せる(調べるだけ)移行の途中で上限に当たり、やり直しになる
2権限の設計移行先のフォルダ(共有の単位)と、部署×役割の表を先に決める戻せる(紙の上)全員が全部を見られる、または誰も開けない状態で始まる
3移行方式の選択公式の移行ツール/同期アプリ/手作業のコピー、から選ぶ戻せる更新日時や権限が想定と違う形で移る
4並行期間旧機器を残したまま、差分を繰り返し移す。利用者に新しい場所で開く練習をしてもらう戻せる切替日に初めて問題が見つかる
5切替旧機器を読み取り専用にして最後の差分を移し、以後は新しい場所だけに書く戻せる(旧機器が残っている間)新旧の両方に書き込まれ、どちらが最新か分からなくなる
6旧機器の処分一定期間の後、バックアップを確認してからデータを消去し、機器を処分する戻せない移し漏れに気づいたときに原本が無い

設計上の要点は、5と6の間を空けることです。月次・年次でしか開かないファイル(決算、年末の書類など)があるので、「1回もその周期を越えていないうちは処分しない」と決めておくと、移し漏れに気づく機会が残ります。

2. 工程1:棚卸し(記入して使う)

調べること記入欄何のために見るか
全体の容量とファイル数  GB/  件移行先の上限と、移すのにかかる日数の見積もり
最も深い階層と、最も長いパスの文字数  階層/  文字パス長・階層の上限に当たらないか
ファイル名・フォルダ名に使っている記号移行先で使えない文字が無いか
1年以上更新の無いフォルダ移さずに保管用として分ける候補
個人名のフォルダ、退職者のフォルダ持ち主を決め直す(権限設計へ)
業務ソフトが直接読み書きしている場所クラウドに移すと動かなくなる可能性がある。ソフトの提供元に確認
今の権限(誰が・どのフォルダに・何ができるか)2番目の工程の材料
今のバックアップの方法移行後のバックアップを決め直す

上限の例(公式ページで確認できたもの・取得日 2026-09-20)

数値は変わることがあります。自社が使うサービスの公式ページを開いて、同じ項目を確かめてください。

項目Microsoft 365(SharePoint・OneDrive)の例Google ドライブ(共有ドライブ)の例
ファイル数同期は、性能面の推奨として合計30万件まで1つの共有ドライブに50万件まで(フォルダ・ショートカット・ゴミ箱内を含む)
パス・階層ファイル名を含むパス全体で400文字まで。空白や記号は、見た目より長く数えられる場合があると公式ページに注記があるフォルダの入れ子は100階層まで
1ファイルの大きさ250GBまで5TBまで
名前に使えないもの" * : < > ? / \ と縦棒、先頭・末尾の空白。CON PRN AUX NUL などの名前、~$ で始まる名前(この記事では未確認)
1日に上げられる量(この記事では未確認)利用者1人あたり24時間で750GBまで
個別の権限の数1つのライブラリで個別権限は5万件が上限、推奨は5,000件まで(この記事では未確認)

表から読み取れる設計上の含意は2つです。1つは、ファイル数が多い会社は 1つの置き場所に全部を入れず、部署や用途で分けること。もう1つは、個別の権限に上限と推奨値がある以上、ファイル単位・深い階層での権限の付け替えを増やさないことです。どちらも、次の権限設計に直結します。

3. 工程2:権限を先に設計する

Microsoftの公式資料によると、公式の移行ツールでファイル共有から権限を引き継げるのは「読み取り」「書き込み」「フルコントロール」の3種類で、「拒否」などの特殊な権限は引き継がれません。また、引き継ぐには、元の利用者に対応する利用者が移行先にいること(社内のディレクトリとの同期、または対応表)が前提です。対応が無い場合は、移行先の場所の既定の権限が付きます。

つまり「今の権限をそのまま運ぶ」のは、条件がそろった場合の一部だけです。長年の付け足しで誰にも説明できなくなった権限を、条件をそろえてまで運ぶ意味は薄いことが多く、小さな会社では 移行先の共有の単位ごとに、部署×役割の表から付け直すほうが見通しが良くなります。

→ 表の作り方は 共有フォルダの権限設計

4. 工程3:移行方式を状況で選ぶ

状況向く方式理由と注意
移行先がMicrosoft 365で、ファイル数が多い・差分を繰り返し移したい公式の移行ツール(SharePoint Migration Tool)。Microsoftは、社内のファイル共有からの移行に使える無償のツールとして案内しているタスクを保存して再実行すると、新規・更新分だけを移せる(差分移行)。手順には、移行前のスキャンと評価の工程が含まれている
移行先がGoogle Workspace共有ドライブを先に作り、そこへ上げる共有ドライブのファイルは個人ではなくチームのものになり、Googleの資料では、メンバーが抜けてもファイルは残るとされている。マイドライブからフォルダごと移せるアクセスレベルには条件があるので、公式ヘルプで確認する
数十GB・数千件程度で、階層が浅い同期アプリまたはブラウザからの手作業手軽だが、途中で失敗したときに「どこまで移ったか」を自分で照合する必要がある。件数を移行前後で比べる
業務ソフトが共有フォルダを直接使っているその部分は移さず、社内に残す残した部分のバックアップと権限は、引き続き社内で管理する

5. 工程4〜5:並行期間と切替

  1. 部署を1つ選び、先に移して1〜2週間使ってもらう。困りごと(開けない、探せない、リンクが切れた)を記録する。
  2. 記録をもとに、フォルダの分け方と権限を直す。
  3. 残りの部署を順に移す。旧機器にはまだ書き込めるので、差分を定期的に移す。
  4. 切替日を決めて周知する。当日、旧機器の共有を 読み取り専用 に変え、最後の差分を移す。
  5. 移行前後でファイルの件数と容量を比べ、記録する。
  6. 旧機器の場所を指すショートカット、業務ソフトの保存先、複合機のスキャンの保存先を新しい場所に直す。

失敗しやすいのは4番です。読み取り専用にせずに切り替えると、古い場所に書き続ける人が出て、どちらが最新かを後から人の目で突き合わせることになります。

6. 工程6:旧機器の処分の前に

#確認すること
1切替から、月次・年次の業務を少なくとも1周した
2移行前後の件数・容量の記録が残っている
3移行先のバックアップを決め、復元を1回試した(クラウドに置いただけではコピーは増えていない)
4旧機器を停止した状態で、1〜2週間、業務に支障が出なかった
5データの消去の方法を、機器のメーカーの公式手順で確認した

→ バックアップの決め方は 3-2-1のバックアップ、NASを残す場合は RAIDはバックアップではない

出典(取得日: 2026-09-20)