社長に「NASがもう古いから、クラウドにしておいて」と言われた。容量を調べ、移行ツールを探し、週末にコピーを流す段取りを考え始めている。たぶん、いまそのあたりだと思います。
先に言うと、この引っ越しの成否はコピーを始める前の2つ、棚卸しと権限の設計で決まります。コピー自体はツールがやってくれます。失敗する会社は、10年分のフォルダを権限ごと丸ごと運び、「誰が何を見られるのか誰も説明できない置き場所」をクラウドに作り直してしまいます。この記事を読み終えると、移す物と移さない物を分けられ、移行先の上限に当たる前に気づけて、旧NASをいつ処分してよいかを自分で決められます。
先に結論:私が守っている決まり
①棚卸し → ②権限の設計 → ③移行方式を選ぶ → ④並行期間 → ⑤切替 → ⑥旧NASの処分
- 権限は運ばない。作り直す。 理由は3節に書きます。フォルダ構造ごと権限つきで丸ごと移すのは、私は勧めません。
- 3年開いていないフォルダは移さない。 保管用として別に分けます。移す量が減れば、上限にも日数にも余裕ができます。
- 旧NASは切替の日に読み取り専用にし、最低1か月、決算をまたぐならその周期が1周するまで処分しない。 この工程で戻せないのは⑥だけです。ここを急がないことが、全体の保険になります。
目次(7)
1. 全体図:6工程と、戻せるかどうか
| 順 | 工程 | やること | 戻せるか | 省くと起きること |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 棚卸し | 容量、ファイル数、深い階層、長いパス、使われていないフォルダ、今の権限を調べる | 戻せる(調べるだけ) | 移行の途中で上限に当たり、やり直しになる |
| 2 | 権限の設計 | 移行先の共有の単位と、部署×役割の表を先に決める | 戻せる(紙の上) | 全員が全部を見られる、または誰も開けない状態で始まる |
| 3 | 移行方式の選択 | 公式の移行ツール/同期アプリ/手作業のコピーから選ぶ | 戻せる | 更新日時や権限が想定と違う形で移る |
| 4 | 並行期間 | 旧NASを残したまま差分を繰り返し移し、1部署で先に試す | 戻せる | 切替日に初めて問題が見つかる |
| 5 | 切替 | 旧NASを読み取り専用にして最後の差分を移し、以後は新しい場所だけに書く | 戻せる(旧NASがある間) | 新旧の両方に書き込まれ、どちらが最新か分からなくなる |
| 6 | 旧NASの処分 | バックアップを確認してからデータを消去し、処分する | 戻せない | 移し漏れに気づいたときに原本が無い |
2. 工程1:棚卸し(記入して使う)
| 調べること | 記入欄 | 何のために見るか |
|---|---|---|
| 全体の容量とファイル数 | GB/ 件 | 移行先の上限と、移すのにかかる日数の見積もり |
| 最も深い階層と、最も長いパスの文字数 | 階層/ 文字 | パス長・階層の上限に当たらないか |
| ファイル名・フォルダ名に使っている記号 | 移行先で使えない文字が無いか | |
| 3年以上開かれていないフォルダ | 移さずに保管用へ分ける | |
| 個人名のフォルダ、退職者のフォルダ | 持ち主を決め直す | |
| 業務ソフトが直接読み書きしている場所 | クラウドに移すと動かなくなることがある。ソフトの提供元に確認 | |
| 複合機のスキャンの保存先 | 切替の日に必ず直す場所 | |
| 今の権限(誰が・どのフォルダに・何ができるか) | 工程2の材料 | |
| 今のバックアップの方法 | 移行後のバックアップを決め直す |
「3年」は私の目安です。保存義務のある書類は捨てるのではなく、読み取り専用の保管場所(保管用の共有ドライブやライブラリを1つ)にまとめます。日常の置き場所に混ぜないことが目的です。よくあるのは、「念のため全部」と言われて全部を移し、検索結果が10年前の見積書で埋まって、利用者が新しい場所を嫌いになる形です。
見落としが多いのは業務ソフトの行です。会計・販売管理・CADなどが共有フォルダ上のデータファイルを直接開いている場合、その部分はクラウドストレージに移すと動かなくなるか、同期の競合で壊れます。私ならその部分だけは社内に残します。 全部をクラウドへ、にこだわる理由はありません。
上限の例(公式ページで確認できたもの・取得日 2026-09-20)
数値は変わります。自社が使うサービスの公式ページで、同じ項目を確かめてください。
| 項目 | Microsoft 365(SharePoint・OneDrive)の例 | Google ドライブ(共有ドライブ)の例 |
|---|---|---|
| ファイル数 | 同期は、性能面の推奨として合計30万件まで | 1つの共有ドライブに50万件まで(フォルダ・ショートカット・ゴミ箱内を含む) |
| パス・階層 | ファイル名を含むパス全体で400文字まで。空白や記号は、見た目より長く数えられる場合があると公式ページに注記がある | フォルダの入れ子は100階層まで |
| 1ファイルの大きさ | 250GBまで | 5TBまで |
| 名前に使えないもの | " * : < > ? / \ と縦棒、先頭・末尾の空白。CON PRN AUX NUL などの名前、~$ で始まる名前 | (この記事では未確認) |
| 1日に上げられる量 | (この記事では未確認) | 利用者1人あたり24時間で750GBまで |
| 個別の権限の数 | 1つのライブラリで個別権限は5万件が上限、推奨は5,000件まで | (この記事では未確認) |
この表から私が引く結論は2つです。ファイル数が多い会社は、1つの置き場所に全部を入れず、部署や用途で分ける。そして個別の権限に上限と推奨値がある以上、ファイル単位・深い階層での権限の付け替えを持ち込まない。日本語の長いフォルダ名を何段も重ねたNASでは、400文字のパス上限は珍しくなく当たります。当たるのはたいてい移行の終盤で、エラーの一覧を見て初めて知ることになります。だから棚卸しで先に測ります。
3. 工程2:権限は運ばず、作り直す
Microsoftの公式資料によると、公式の移行ツールでファイル共有から権限を引き継げるのは「読み取り」「書き込み」「フルコントロール」の3種類で、「拒否」などの特殊な権限は引き継がれません。引き継ぐには、元の利用者に対応する利用者が移行先にいること(社内のディレクトリとの同期、または対応表)が前提です。対応が無い場合は、移行先の場所の既定の権限が付きます。
つまり「今の権限をそのまま運ぶ」ことは、条件がそろったときに一部だけ出来る話です。そして小さな会社のNASの権限は、たいてい運ぶ価値がありません。よくあるのは、「あの人だけ見られるように」の付け足しが10年積もり、退職者の名前が残り、拒否の設定で無理やり隠したフォルダがある状態です。NASのローカルユーザーで運用していれば、移行先に対応する利用者もいません。
私なら、移行先の共有の単位(共有ドライブ、サイト)を部署や用途で5〜10個に分け、権限はその単位にグループで付け、下の階層では変えません。 「全社」「経理」「人事」「役員」「取引先共有」くらいから始めて足ります。数は私の目安です。理由は、移行後に「この人は何が見えるか」に答えられるのが、この形だけだからです。
→ 表の作り方は 共有フォルダの権限設計。名簿の土台は AD/Entra ID/何も入れないの判断
4. 工程3:移行方式を選ぶ
移行先は、いまメールで契約しているグループウェアの側のストレージを勧めます。Microsoft 365ならSharePointとOneDrive、Google Workspaceなら共有ドライブです。利用者の名簿がすでにそこにあり、退職時の停止が1か所で済むからです。ストレージ専業のサービスを別に契約するのは、取引先との大容量のやり取りが多いなど、はっきりした理由があるときだけにします。
| 状況 | 向く方式 | 私の評価 |
|---|---|---|
| 移行先がMicrosoft 365で、件数が多い・差分を繰り返し移したい | 公式の移行ツール(SharePoint Migration Tool)。Microsoftが社内のファイル共有からの移行用に無償で案内している | これを使います。 タスクを保存して再実行すると新規・更新分だけを移せる(差分移行)。移行前のスキャンで、上限に当たるファイルが先に分かる |
| 移行先がGoogle Workspace | 共有ドライブを先に作り、そこへ上げる | 個人のマイドライブではなく、必ず共有ドライブへ。共有ドライブのファイルはチームのもので、Googleの資料ではメンバーが抜けてもファイルは残るとされている。マイドライブに置くと、退職のたびに持ち主の移し替えが要る |
| 数十GB・数千件程度で、階層が浅い | 同期アプリ、またはブラウザからの手作業 | 出来るが、途中で失敗したときに「どこまで移ったか」を自分で照合することになる。件数を移行前後で必ず比べる |
| 業務ソフトが共有フォルダを直接使っている | その部分は移さず、社内に残す | 残した部分のバックアップと権限は、引き続き社内で面倒を見る |
5. 工程4〜5:並行期間と切替
- 部署を1つ選び、先に移して1〜2週間使ってもらう。困りごと(開けない、探せない、リンクが切れた)を記録する。
- 記録をもとに、分け方と権限を直す。
- 残りの部署を順に移す。旧NASにはまだ書き込めるので、差分を定期的に移す。
- 切替日を決めて周知する。当日、旧NASの共有を読み取り専用に変え、最後の差分を移す。
- 移行前後でファイルの件数と容量を比べ、記録する。
- 旧NASを指すショートカット、業務ソフトの保存先、複合機のスキャンの保存先を新しい場所に直す。
事故は4で起きます。読み取り専用にせずに切り替えると、デスクトップのショートカットから古い場所に書き続ける人が必ず出ます。発覚するのは数週間後、「先週直した見積が無い」と言われたときで、そこから新旧を人の目で突き合わせることになります。周知のメールでは防げません。書けなくするのがいちばん確実です。
6. 工程6:旧NASを処分する前に
| # | 確認すること | 済 |
|---|---|---|
| 1 | 切替から1か月以上たち、月次・年次の業務を少なくとも1周した | □ |
| 2 | 移行前後の件数・容量の記録が残っている | □ |
| 3 | 移行先のバックアップを決め、復元を1回試した(クラウドに置いただけではコピーは増えていない) | □ |
| 4 | 旧NASの電源を落とした状態で1〜2週間、業務に支障が出なかった | □ |
| 5 | データの消去の方法を、機器のメーカーの公式手順で確認した | □ |
4は処分の前の最後の試験です。電源を落として誰も困らなければ、依存は残っていません。困る人が出たら、その人が開こうとした物が移し漏れです。
→ バックアップの決め方は 3-2-1のバックアップ、NASを残す場合は RAIDはバックアップではない
出典(取得日: 2026-09-20)
- Microsoft サポート “Restrictions and limitations in OneDrive and SharePoint” https://support.microsoft.com/en-us/office/restrictions-and-limitations-in-onedrive-and-sharepoint-64883a5d-228e-48f5-b3d2-eb39e07630fa
- Microsoft サポート “What are the file path length limits?” https://support.microsoft.com/en-us/onedrive/what-are-file-path-length-limits
- Google Workspace 管理者ヘルプ “Shared drive limits in Google Drive” https://support.google.com/a/answer/7338880?hl=en
- Microsoft Learn “SharePoint Migration Tool for SharePoint and OneDrive” https://learn.microsoft.com/en-us/sharepointmigration/introducing-the-sharepoint-migration-tool
- Microsoft Learn “What does SPMT support?” https://learn.microsoft.com/en-us/sharepointmigration/what-is-supported-spmt
- Microsoft Learn “File & folder permission when using SharePoint Migration Tool” https://learn.microsoft.com/en-us/sharepointmigration/understanding-permissions-when-migrating
- Google Workspace 管理者ヘルプ “What are shared drives?” https://support.google.com/a/answer/7212025?hl=en