小さな事業のIT手帖

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判断・選び方

30人の会社にActive Directoryは要るか。私の答えは「ほとんどの場合、要らない」

公開 更新 読了11分

中身の図の縮小版。色が付いているのは: 社員の名簿と入館証(アカウント・パスワード)契約の名義とログイン情報ドメインDNSサイトメールアカウントファイルバックアップ電源・機器回線端末ソフトホームページとメール・パソコンの中身の図の、ここの話です社員の名簿と入館証(アカウント・パスワード)中身の図で位置を見る →

社長に「うちもADとか入れたほうがいいの?」と聞かれた。あるいは出入りの業者から、サーバの更新に合わせてActive Directoryの構築を提案されている。30人の会社にそれが要るのか、判断の物差しが無い。

私の答えは、ほとんどの場合、要りません。 Microsoft 365かGoogle Workspaceを契約している会社には、利用者とグループの名簿(ディレクトリ)がすでにあります。それを正本として使い切るほうが先です。ADの構築を仕事にしてきた立場で言いますが、10〜50人の会社にオンプレのADを新しく建てる理由は、いまは1つしか残っていません。この記事を読み終えると、自社がどの行に当たるかを判断表で決められ、業者の提案に何を聞き返せばよいかが分かります。

先に結論

  • 決めるのは製品ではなく、「人の名簿の正本をどこに1つ置くか」。 入社・退職のたびに直す場所が1か所なら、どの方式でも回ります。
  • オンプレのADを新設してよいのは、ドメイン参加(Windowsの認証)が前提の業務ソフトかサーバが社内にある場合だけ。 「一元管理できるから」「セキュリティのために」は理由になりません。それはクラウドのディレクトリで出来ます。
  • すでにADがある会社は、急いで捨てない。 依存している物が無くなってから外します。順番を逆にすると、業務ソフトとファイルサーバが同じ日に止まります。
目次(6)
  1. 1. なぜ「要らない」と言い切るのか
  2. 2. 4つの方式は何が違うか
  3. 3. 判断表:前提条件から分岐する
  4. 4. よくある失敗
  5. 5. 「何も入れない」場合の台帳の最低限(記入して使う)
  6. 出典(取得日: 2026-09-20)

1. なぜ「要らない」と言い切るのか

ADは建てるより、維持するほうが重い仕組みです。ドメインコントローラは、止まると全員がサインインできなくなるサーバです。だから本来は2台要り、バックアップと復元の手順が要り、OSの更新とサポート期限の管理が要り、数年ごとに移行の作業が来ます。

よくあるのは、サーバの更新のついでにADが1台だけ建ち、構築した業者の担当者が替わり、管理者のパスワードを誰も知らないまま数年動き続ける形です。発覚するのは、そのサーバのディスクが壊れた日か、退職者のアカウントでまだVPNに入れると気づいた日です。ひとり情シスが兼任で背負う仕組みではありません。

2. 4つの方式は何が違うか

方式何であるか(公式の説明の要約)得意なこと前提・注意私の評価
オンプレのAD(Active Directory Domain Services)社内のサーバ(ドメインコントローラ)で動くディレクトリ。ドメイン参加、グループポリシー、LDAP、Kerberos/NTLMの認証を提供する社内ネットワークの中のWindowsパソコン、ファイルサーバ、ドメイン参加が前提の業務ソフトの一元管理サーバを自社で維持する。社外のパソコンやクラウドのサービスは、そのままでは対象にならない新設は、理由が1つある会社だけ
Microsoft Entra IDクラウドで提供される、利用者・グループ・アプリへのサインインの管理。Microsoft 365の利用者の名簿はここにあるMicrosoft 365や他のクラウドサービスへのサインインの一本化、条件付きのアクセス制御、社外のパソコンを含む管理(端末の管理は別の管理サービスと組み合わせる)グループポリシーやKerberosそのものではない。パソコンを直接参加させた場合(Entra 参加)は、Entra IDのアカウントでサインインする。Microsoftの資料では、社内のADの利用者をEntra IDへ同期している会社なら、この形でも社内ネットワーク上で社内のファイルサーバ等にシングルサインオンできるとされているM365の会社はこれが正本
Google Workspaceのディレクトリ(Cloud Identity)利用者とグループをクラウドで一元管理するサービスGoogle Workspaceと、連携したクラウドサービスへのサインインの一本化Windowsパソコンへのサインインを Googleアカウントで行う仕組み(Google Credential Provider for Windows)は、対応するWindowsのエディションが決まっている。LDAP前提の機器をつなぐ機能(Secure LDAP)は、使えるエディションが限られる。どちらも公式ヘルプで確認Googleの会社はこれが正本
何も入れないパソコンごとのローカルアカウントと、サービスごとのアカウントを、台帳で管理する導入の手間が無い名簿の正本が「台帳」になる。台帳の更新が止まると、退職者のアカウントが残る10人前後までなら、あり

ADとEntra IDを併用する形(社内のADの利用者・グループをEntra IDへ同期する)もあります。Microsoftは同期の仕組みとして、軽量のエージェントを社内に置き、設定をクラウド側で管理する方式(Microsoft Entra Cloud Sync)を案内しています。パソコンを社内のADに参加させたうえでEntra IDにも登録する形(ハイブリッド参加)は、Microsoftの資料によると、パソコンが定期的に社内のドメインコントローラと通信できることが前提です。社外に出たままのパソコンが多い会社には向きません。ADが無い会社が、ハイブリッド参加のためにADを建てるのは順番が逆です。

3. 判断表:前提条件から分岐する

上から順に見て、最初に当てはまった行が出発点です。

#前提条件出発点理由
1すでに社内にADがあり、ドメイン参加が前提の業務ソフト・ファイルサーバが現役ADを続け、クラウドのディレクトリへ同期する。業務ソフトの更改のときに、ADを減らせるかを見直す動いている認証の土台を先に外すと、業務ソフトとファイルサーバが同時に止まる。外すのは、依存するものが無くなってから
2ADは無い。メールとファイル共有はMicrosoft 365Entra IDを正本にする(すでに名簿がある)。パソコンはEntra 参加を検討新しくサーバを建てずに、サインインと退職時の停止を1か所にできる
3ADは無い。メールとファイル共有はGoogle WorkspaceGoogle Workspaceのディレクトリを正本にする。他のクラウドサービスは、対応していればそこからのサインインに寄せる同上。Windowsパソコンのサインインまで寄せるかは、エディションの条件を確認してから
4ADは無い。これからドメイン参加が前提の業務ソフトを入れる予定がある業務ソフトの提供元に 「クラウドのディレクトリで動くか」を先に確認。動かない場合だけADを検討1本の業務ソフトのためにサーバの維持が始まる。代わりの構成があるなら、そちらが軽い
510人前後で、共用のパソコンが少なく、クラウドのサービスも数個何も入れず、台帳で管理。ただし5節の「台帳の最低限」を満たす仕組みを入れる手間が、得られる効果を上回ることがある
65に当てはまるが、退職者のアカウントが残っていた・誰が管理者か分からない、が1回でも起きた2または3へ進む台帳の運用が回っていない合図。人数が増える前に正本を仕組みに移す

メールがレンタルサーバー付属で、グループウェアの契約が無い会社は、この表の手前にいます。私なら先にMicrosoft 365かGoogle Workspaceを契約し、メールと名簿を同時にそこへ寄せます。ADの検討はその後で、たいてい不要になります。どちらを選ぶかは、取引先とやり取りするファイルがExcelとWord中心ならMicrosoft 365、ブラウザで完結する仕事ならGoogle Workspace、で決めて困りません。

4の行に当たり、確認の結果どうしてもADが要るなら、私は事務所にサーバを置かず、法人向けのクラウドのサーバ(VPSやクラウドの仮想マシン)か、クラウド事業者のマネージドのディレクトリサービスに載せることを先に検討します。事務所の床に置いたサーバは、停電と空調と盗難まで自分の仕事になるからです。

業者にADを提案されたときに聞くこと

聞くこと答えの読み方
ADが無いと動かない物は、具体的に何ですか製品名が出てこなければ、要らない。「管理が楽になる」は答えになっていない
ドメインコントローラは何台ですか。1台なら、壊れた日は何が止まり、どう戻しますか1台でバックアップの話が出ない提案は、断ってよい
5年後のOSのサポート終了のとき、移行は誰が、いくらでやりますか構築費だけの見積は、費用の半分しか見えていない
社外で使うパソコンには、どう効きますか「VPNでつなげば」が答えなら、在宅の多い会社には合わない

方式を決める前に確かめる2点

問い「はい」なら
MicrosoftとGoogleの両方を契約しているか正本をどちらか1つに決め、もう一方は同期または手順で追従させる。正本が2つある状態を作らない
複合機・NAS・VPN機器が、利用者の認証にLDAPやADを使っているか機器のメーカーの公式資料で、対応する認証方式を確認してから方式を決める

4. よくある失敗

失敗の型起き方私ならこうする
正本が2つになるADとクラウドの両方で、別々に利用者を作る。退職のとき片方だけ止めて、もう片方が残る作る場所を1つに決め、もう一方は同期する
管理者が1人だけ導入した人がそのまま唯一の管理者になり、その人の退職で誰も入れなくなる管理者は2人。日常用と管理用のアカウントを分け、管理用には2要素認証 → パスワード管理と2要素認証
ADのサーバが1台で、バックアップも無い「動いているから」で後回しになる復元の手順を1回試す。試せないなら、その仕組みは持つべきではない。考え方は 3-2-1のバックアップ、停電対策は UPSの容量計算
共有アカウントが残る「全員で1つ」のアカウントは、誰が使ったか分からず、退職のたびにパスワード変更が要る。実際には変えられていない個人ごとのアカウントに置き換える。置き換えられないものは台帳に載せる
権限を個人に付けるグループを作る手間を省く。異動のたびに付け外しが漏れる共有フォルダの権限設計

5. 「何も入れない」場合の台帳の最低限(記入して使う)

列書くこと
サービス・機器の名前メール、ファイル共有、会計、ドメイン管理、複合機、Wi-Fiなど
管理者2人。うち1人は経営者か、それに準ずる人
利用者個人ごとのアカウントか、共有か
2要素認証設定済み/未設定。回復用の手段の保管場所
退職時にやること停止/削除/パスワード変更/持ち主の移し替え
最後に確認した日半年に1回

台帳は、どの方式を選んでも残ります。ディレクトリに載らないサービス(ドメインの管理画面、銀行、機器の管理画面など)があるためです。退職時の順番は 退職・外注終了のときに止めるアカウントの一覧 にまとめています。

業界のガイドラインや取引先との契約に認証の要件がある場合は、そちらが先です。ファイルサーバをやめる話が同時に出ているなら、NASからクラウドへの引っ越し を先に読んでください。ファイルサーバが無くなれば、ADに残る理由はさらに減ります。

出典(取得日: 2026-09-20)

この記事は特定の製品の使用レビューではありません。公式仕様と公的情報をもとに整理しています。 ・仕様の取得日