結論
- 順番は ①サインインを止める → ②データとメールの行き先を決める → ③共有のパスワード・2要素認証を入れ替える → ④機器と物を回収する → ⑤一定期間の後に削除する です。
- 最初にやるのは「削除」ではなく「停止」です。削除は、サービスによってはデータも一緒に消えます。停止なら戻せます。
- 止める対象は、会社のディレクトリ(Microsoft 365やGoogle Workspace)に載っているアカウントだけではありません。ドメインの管理画面、サーバ、SaaS、機器の管理画面、共有のパスワードは別に止める必要があり、漏れやすいのはこちらです。
- IPAの「組織における内部不正防止ガイドライン」(第5版)は、雇用終了時・契約終了時に、情報資産の返却または完全消去と、情報システムの利用者IDや権限の削除を求めており、利用者IDや権限の削除は「雇用終了直後に速やかに実施することが肝要」としています。外注先との契約終了も同じ扱いです。
退職者のメールやファイルを会社がどこまで見てよいか、いつまで保存するか、誓約書をどう交わすかは、法律と就業規則の問題です。この記事では扱いません。就業規則と、社会保険労務士・弁護士などの専門家に確認してください。
1. 全体の順番と、戻せるかどうか
| 順 | やること | いつ | 戻せるか | 理由 |
|---|---|---|---|---|
| 0 | 一覧を用意する(2節の表) | 退職・契約終了が決まった日 | — | 当日に探し始めると漏れる |
| 1 | 引き継ぎ:本人しか知らない管理者権限・2要素認証・契約の名義を洗い出し、別の管理者を足す | 最終日より前 | 戻せる | 本人がいるうちにしかできない。管理者が本人だけのサービスは、止めた瞬間に誰も入れなくなる |
| 2 | サインインを止める(停止・サインインのブロック)、ログイン中の端末からサインアウトさせる | 最終日の業務終了後 | 戻せる | 削除と違い、データが残る |
| 3 | メールの行き先を決める(転送、共有のメールボックス化、自動返信など) | 同日 | 戻せる | 取引先からのメールを取りこぼさない |
| 4 | ファイルの持ち主を移す。個人の領域に残った業務ファイルを、共有の場所へ | 同日〜数日 | 戻せる | 個人が持ち主のファイルは、アカウントの削除で消えるサービスがある |
| 5 | 共有のパスワードを変える。共有の2要素認証(本人の端末に入っていたもの)を登録し直す | 同日 | 戻せる | 本人の頭と端末に残っている |
| 6 | グループ・共有フォルダ・チャットの名簿から外す。社外の共有(取引先の共有フォルダ等)からも外してもらう | 同日〜数日 | 戻せる | 停止していても、名簿に残ると棚卸しのたびに迷う |
| 7 | パソコン・スマートフォン・入館証・鍵の回収。私物の端末に入れた会社のアカウントの削除を確認 | 最終日 | — | IPAの同ガイドラインも、情報資産と入館証等の返却の確認を求めている |
| 8 | アカウントの削除、ライセンスの解放 | 社内で決めた保存期間の後 | 戻せない(復元の猶予があるサービスもある) | データの要否を確認してから |
公式の手順も、止めるのが先で削除が最後という並びです。Microsoftは、元従業員の対応を「サインインのブロック → メールボックスの内容の保存 → モバイル端末の消去とブロック → メールの転送または共有メールボックス化 → OneDriveとOutlookのデータへのアクセスを別の従業員に渡す → ライセンスの削除 → アカウントの削除」の順で案内しています。Google Workspaceの管理者ヘルプは、元従業員のデータを残す方法として、停止、アーカイブ、他の利用者への移し替え、書き出しを挙げ、移し替えずに削除するとデータは削除されること、削除後に復元できるのは20日以内であることを示しています。
2. 止めるアカウントの一覧(記入して使う)
「載っている場所」の列が要点です。ディレクトリを止めれば一緒に止まるものと、1つずつ止めるものを分けます。
| 種類 | 例 | 載っている場所 | やること | 担当 | 済 |
|---|---|---|---|---|---|
| メール・グループウェア | 会社のメール、カレンダー、チャット | ディレクトリ | 停止 → 転送等 → 後日削除 | □ | |
| ファイル共有 | 共有フォルダ、クラウドストレージ | ディレクトリ/NAS本体 | グループから外す、持ち主を移す | □ | |
| パソコンのサインイン | 会社のパソコン | ディレクトリ/端末ごと | 停止、端末の回収と初期化 | □ | |
| ディレクトリ連携のSaaS | 会社のアカウントでサインインしているサービス | ディレクトリ経由 | 停止で入れなくなるかを確認。サービス側の席も外す | □ | |
| 個別登録のSaaS | 会計、請求、勤怠、デザイン、開発ツールなど | サービスごと | 利用者から外す。管理者だった場合は先に別の管理者を足す | □ | |
| ドメイン・DNS・サーバ | レジストラ、DNS、レンタルサーバ、クラウドの管理画面 | サービスごと | 利用者から外す。登録の連絡先メールが本人のアドレスなら変更する | □ | |
| 共有のパスワード | 共用アカウント、Wi-Fi、複合機・NAS・ルーターの管理画面 | 台帳・パスワード管理ソフト | 変更。パスワード管理ソフトの共有の保管庫から本人を外す | □ | |
| 2要素認証 | 共用アカウントの認証アプリ・SMSの宛先が本人の端末 | 本人の端末 | 最終日より前に、別の管理者の端末へ登録し直す。回復用コードを保管する | □ | |
| 社外のもの | 取引先の共有フォルダ、取引先のチャット、業界団体のサイト | 相手側 | 相手に連絡して外してもらう。後任を伝える | □ | |
| 物 | パソコン、スマートフォン、入館証、鍵、USBメモリ | — | 回収、初期化 | □ |
状況別:先に見る行
| 状況 | 先に見る行 | 理由 |
|---|---|---|
| 辞める人が、唯一のIT担当だった | ドメイン・DNS・サーバ、2要素認証、共有のパスワード | 管理者が1人のまま止めると、会社の誰も入れなくなる。最終日より前に、別の管理者を足して実際にサインインできるかを試す |
| 外注の制作会社・保守会社との契約が終わる | ドメイン・DNS・サーバ、個別登録のSaaS | 契約の名義や登録の連絡先が外注先のままのことがある → 制作会社名義のドメインを自社名義にする段取り |
| 急な退職で、引き継ぎの時間が無い | 順番の2(停止)と5(共有のパスワード)を当日中に。残りは一覧で追う | 停止は戻せるので、先に止めて困ることは少ない |
| 共用のメールアドレス(問い合わせ窓口など)を本人が1人で見ていた | メール | 転送先と、後任が過去のやり取りを読める形を先に決める |
3. 失敗しやすい点
| 失敗の型 | 起きる理由 | 手当て |
|---|---|---|
| すぐに削除して、ファイルやメールが消える | 「止める=削除」と思っている | 停止 → 移し替え → 保存期間の後に削除、の3段にする |
| 個別登録のSaaSに席が残る | ディレクトリを止めれば全部止まると思っている | 一覧の「載っている場所」を埋める。半年に1回、各サービスの利用者の一覧と名簿を突き合わせる |
| 共用アカウントの2要素認証が、退職者の端末に入ったまま | 設定した人の端末で登録した | 共用アカウントの認証は、管理者2人の端末に登録し、回復用コードを保管する → パスワード管理と2要素認証 |
| ドメインの更新の通知が、退職者のアドレスに届き続ける | 登録の連絡先を個人のアドレスにしていた | 連絡先を役割のアドレス(管理用の共有アドレス)に変える → ドメインの更新を忘れたときの復旧 |
| 権限が個人に付いていて、外し漏れる | フォルダごとに個人を足してきた | グループに付け直す → 共有フォルダの権限設計 |
4. 当日の確認表
| # | 確認すること | 済 |
|---|---|---|
| 1 | 本人が唯一の管理者であるサービスが無い(別の管理者でサインインを試した) | □ |
| 2 | ディレクトリのアカウントを停止し、端末からサインアウトさせた | □ |
| 3 | メールの転送先・自動返信を設定し、テストのメールが届いた | □ |
| 4 | 個人の領域の業務ファイルの持ち主を移した | □ |
| 5 | 共有のパスワードと、共用アカウントの2要素認証を入れ替えた | □ |
| 6 | 一覧の「サービスごと」の行をすべて処理した | □ |
| 7 | 機器と入館証・鍵を回収した | □ |
| 8 | 削除の予定日を決め、一覧に書いた | □ |
アカウント管理の土台を見直す場合は AD/Entra ID/何も入れないの判断表 へ。
出典(取得日: 2026-09-20)
- IPA「組織における内部不正防止ガイドライン」 https://www.ipa.go.jp/security/guide/insider.html
- IPA「組織における内部不正防止ガイドライン」第5版(2022年4月)本文PDF「(24) 雇用終了及び契約終了による情報資産等の返却」 https://www.ipa.go.jp/security/guide/hjuojm00000055l0-att/ps6vr7000000jvcb.pdf
- Microsoft Learn “Remove a former employee - Overview” https://learn.microsoft.com/en-us/microsoft-365/admin/add-users/remove-former-employee?view=o365-worldwide
- Google Workspace 管理者ヘルプ “Options to preserve former employee data” https://knowledge.workspace.google.com/admin/getting-started/options-to-preserve-former-employee-data
- Google Workspace 管理者ヘルプ “What are shared drives?” https://support.google.com/a/answer/7212025?hl=en