開業届を出した直後の人へ。名刺にフリーメールのアドレスを刷る前に、5分だけ読んでください。
開業1年目のITで後悔するのは、高い物を買ったことではなく、後から変えられないものを適当に決めたことです。読み終えると、最初の1週間で決める3つと、半年放っておいてよいものが分かれ、それぞれの決め方の記事へ進めます。
先に結論:全部を一度に決めない。最初の1週間はこの3つだけ
- ドメインを、自分の名義で取る
- そのドメインのメールを、サーバのおまけではない場所に作る
- パスワードの記録の方式を決め、1と2の管理画面に2要素認証をかける
会計、請求、バックアップはその次です。サイトの中身、ロゴ入りの凝ったメール署名、NAS、役割別のアドレス。このあたりは半年放っておいて構いません。
並べた基準は1つで、後から変えると、自分以外の人に影響が出る順です。
| 順 | 項目 | 後から変えると | いつ決める |
|---|---|---|---|
| 1 | ドメイン | 名刺、請求書、取引先の連絡帳、登録した全サービスを直す | 最初の1週間 |
| 2 | メール | 過去メールの引っ越しと、取引先への周知 | 最初の1週間 |
| 3 | パスワード管理 | 変えるのは楽。ただし無いまま増えたアカウントは後から拾えない | 最初の1週間 |
| 4 | 会計 | 年度の途中で替えると、仕訳の移し替えが要る | 最初の売上が立つ前 |
| 5 | 請求 | 番号の体系が途中で変わる。影響は小さい | 最初の請求書を出す前 |
| 6 | バックアップ | いつでも足せる。ただし消えた後では遅い | データが溜まり始めたら |
目次(9)
1. ドメイン:.com を、自分の名義で、自動更新で
メールアドレスとサイトの両方の土台です。
私ならこうします。
- .com を取る。 読み上げて伝わる短い名前で。個人事業なら、登録情報に氏名を出さずに済むのも理由です。法人を登記したら co.jp を足します。
- 名義は自分。制作会社の名義にしない。 よくあるのは、サイト制作を頼んだときに「ドメインもこちらで取っておきますね」と言われ、数年後に制作会社を替えようとして、自社のドメインなのに自分では何も動かせないと気づく形です。親切心からの申し出でも、断ってください。自分のアカウントで取り、制作会社には必要な設定値だけ渡せば足ります。
- 自動更新を有効にする。 更新忘れは、サイトとメールが同時に消える事故です。
放っておいてよいこと: サイトの中身。ドメインだけ先に取り、メールから使い始めて構いません。
→ 自宅開業でドメインを取ると住所が公開される? 出さないための取り方 → すでに制作会社の名義だった人は 名義を取り戻す段取り
2. メール:グループウェアに置く
独自ドメインのメールは、取引先から見た連絡先であると同時に、ほかのサービスのパスワード再設定が届く先です。ここが止まると、全部のアカウントに入れなくなります。
私なら、レンタルサーバー付属のメールではなく、グループウェア(Google Workspace や Microsoft 365 の類)に置きます。 理由は2つです。サーバ付属のメールは、サーバを替えるたびにメールの引っ越しが付いてくること。そして、送信ドメイン認証(SPF・DKIM・DMARC)の設定が管理画面の案内どおりに進められることです。Googleの送信者ガイドラインは、Gmail宛てに送るすべての送信者にSPFまたはDKIMの設定を求めています。設定が無いと、見積もりのメールが相手の迷惑メールフォルダに入り、「返事が来ない」としか見えません。
1人で、月々の費用を足したくないなら、サーバ付属のメールでも始められます。ただしその場合も、SPF・DKIM・DMARCは使い始める日に入れてください。
放っておいてよいこと: info@ のような役割別アドレス、メーリングリスト。1人のうちは1つで足ります。
3. パスワード管理:初日から。後回しにしない
一覧では3番目ですが、ドメインを取った時点で最初のアカウントができます。記録の方式は、ドメインを取る日に決めます。
私なら、専用のパスワード管理ソフトを初日から使います。 開業直後は、ドメイン、メール、銀行、会計、決済と、1か月で10以上のアカウントが増えます。ここで使い回しを始めると、後から全部を変える日は来ません。費用をかけたくなければ、OSやブラウザの組み込み機能でも構いません。勧めないのは、表計算のファイルにパスワードを並べることです。そのファイルが入ったパソコンを失くした時点で、全部を一度に渡すことになります。
総務省の「国民のためのサイバーセキュリティサイト」も、パスワードを使い回さないことと、多要素認証の利用を勧めています。
2要素認証をかける順番は、メール → ドメイン・DNSの管理画面 → 銀行・決済 → 会計・請求です。メールが先なのは、他のすべての再設定がメールに届くからです。
放っておいてよいこと: 複数人での共有の権限設計。1人のうちは要りません。
4. 会計:最初の売上の前に
- 今決めること: 記帳の方法(会計ソフトを自分で使う/税理士等に頼む/その併用)、事業用の口座とカードを私用と分けること、領収書・請求書の保存場所。
- 私なら、口座とカードの分離を最優先にします。 ソフト選びより効きます。混ざった明細を年度末に仕分けるのは、どのソフトでも苦行です。
- ソフトは「自分の申告の種類に対応しているか」「銀行・カードの明細を取り込めるか」「データを書き出せるか」の3点で選びます。3つ目を外すと、乗り換えたくなったときに出られません。
放っておいてよいこと: 部門別・案件別の管理、分析レポート。
帳簿や電子データの保存といった制度上の要件は、国税庁の案内が一次情報です。個別の判断は税理士・税務署に確認してください。
5. 請求:会計と同じ系列でそろえる
請求書のデータは、会計の入力元になります。私なら、会計ソフトと同じ系列の請求機能か、連携できる請求サービスにします。 別々に選ぶと、同じ数字を2回打つことになり、1年目の終わりにどちらかが合わなくなります。
- 今決めること: 様式(記載項目)、番号の振り方(例: 年月+連番)、控えの保存場所、送り方。
- 月に数通なら、表計算のテンプレートでも回ります。ただし番号の重複と控えの保存は、自分で守ることになります。
放っておいてよいこと: 定期請求の自動化、オンライン決済との連携。
6. バックアップ:外付け+クラウドで形にする
メール・帳簿・請求書という「失うと事業が止まるデータ」が溜まり始めたら用意します。
目安は、米国US-CERT(現CISA)の資料にある3-2-1(コピーを3つ、2種類の媒体に、1つは別の場所に)です。IPAの「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン」も、基本の対策の1つにバックアップを挙げています。
私なら、パソコン本体+外付けの記憶媒体+クラウドの保存先、で始めます。 これで3-2-1の形になります。1年目にNASは要りません。機器を増やすと、その機器の面倒を見る仕事が増えます。
見落とされるのは、クラウドの会計・請求サービスの中のデータです。「クラウドだから消えない」は、サービスの側の故障に対してだけの話で、自分の誤操作や解約には効きません。手元へ書き出す手順があるかを確かめ、決算のたびに書き出します(頻度は私の目安です)。
7. 状況別:足す項目と、先に読む記事
| 状況 | 足すこと | 先に読む記事 |
|---|---|---|
| 1人で、自宅で仕事をする | ドメインの登録情報に自宅の住所が出ないかの確認 | 住所を出さないドメインの取り方 |
| 従業員や手伝ってくれる人がいる | 共有アカウントの利用者の一覧、人が抜けたときにパスワードを変える手順 | パスワード管理と2要素認証 |
| 店舗・事務所がある | 停電時に動かし続けたい機器(レジ・ルーター等)の洗い出し、建物の外に置くバックアップ | UPSの容量計算、3-2-1のバックアップ |
| 従業員が10人を超えた/IT担当を兼任している | 共有フォルダの置き場所と権限の見直し、名簿の正本を1つにする、退職時に止めるアカウントの一覧 | NAS・ファイルサーバからクラウドへの引っ越し、AD/Entra ID/何も入れないの判断 |
| すでに別の事業者でサイトやメールを動かしている | 新しく決める前に、引っ越しの順番を確認する | サーバ・ドメイン・メールの引っ越しの順番 |
8. 確認表
| # | 確認すること | 済 |
|---|---|---|
| 1 | ドメインの登録者の名義が自分(自社)で、自動更新が有効 | □ |
| 2 | ドメインの管理画面に登録した連絡先メールが、いま読めるアドレスである | □ |
| 3 | 独自ドメインのメールの置き場所を決めた | □ |
| 4 | SPF・DKIM・DMARCのレコードを設定した | □ |
| 5 | パスワードの記録の方式を決め、使い回しが無い | □ |
| 6 | メール、ドメイン管理画面、銀行・決済、会計・請求の順に2要素認証を設定した | □ |
| 7 | 事業用の口座・カードを私用と分け、記帳の方法を決めた | □ |
| 8 | 請求書の様式・番号の振り方・控えの保存場所を決めた | □ |
| 9 | バックアップの対象・保存先・頻度を決めた | □ |
| 10 | クラウドサービスのデータを手元に書き出す手順を確認した | □ |
| 11 | 7節の表で、当てはまる行の項目を足した | □ |
1〜6が最初の1週間、7〜8が最初の請求書まで、9〜10が3か月以内。この期限の切り方は私の目安です。
出典(取得日: 2026-09-20)
決める順番と期限は、公的な指針の定めではなく筆者の実務上の目安です。
- IPA「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン」 https://www.ipa.go.jp/security/guide/sme/about.html
- Google Workspace 管理者ヘルプ「メール送信者のガイドライン」 https://support.google.com/a/answer/81126?hl=ja
- US-CERT(現CISA)“Data Backup Options” https://www.cisa.gov/sites/default/files/publications/data_backup_options.pdf
- 総務省 国民のためのサイバーセキュリティサイト(パスワード・認証の項) https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/cybersecurity/kokumin/security/business/staff/06/