小さな事業のIT手帖

技術メモ担当者・業者向けの記事です。社長向けの入口は トップの困りごと です。

手順

前任者が辞めた。IT担当を引き継いだ最初の1週間でやること

公開 更新 読了9分

中身の図の縮小版。色が付いているのは: 契約の持ち主(契約の名義とログイン情報)、会社の名前(ドメイン)、社員の名簿と入館証(アカウント・パスワード)契約の名義とログイン情報ドメインDNSサイトメールアカウントファイルバックアップ電源・機器回線端末ソフトホームページとメール・パソコンの中身の図の、ここの話です契約の持ち主(契約の名義とログイン情報)/会社の名前(ドメイン)/社員の名簿と入館証(アカウント・パスワード)中身の図で位置を見る →

「パソコンに詳しいから」とIT担当を引き継いだ。前任者は今週で辞める、あるいはもういない。引き継ぎ書は数行で、何から手を付ければよいか分からない。そういう人へ。

最初の1週間でやるのは、直すことでも良くすることでもなく、「期限」と「鍵」の所在を突き止めることだけです。 会社のITが止まる原因のほとんどは故障ではなく、誰も知らなかった期限切れと、誰も入れない管理画面です。読み終えると、1日目・3日目・1週間でやることが決まり、記入式の台帳1枚と、前任者・業者・社長へ送る文面が手に入ります。

この記事で出来ること
止まると困る物10個の期限と鍵の所在を台帳1枚にまとめ、社長に3行で報告できる
前提
専門知識は不要。前任者が在職中なら、最終出社日より前に始める
所要時間
1日目に2時間、3日目までに半日、1週間の合計で1〜2日分

先に結論:私ならこう進めます

  • 1日目: 止まると困る物10個について、期限と、ログイン情報の所在だけを確かめる。設定は見ない。
  • 3日目まで: 管理者として自分でも入れる状態にする。前任者のアカウントは消さずに止める。
  • 1週間: 台帳1枚にまとめ、社長に3行で報告する。
  • やらない: 構成を変える。業者の提案にその場で乗る。
目次(8)
  1. 1. 1日目:止まると困る物の「期限」と「鍵の所在」
  2. 2. 3日目まで:自分でも入れる状態にする
  3. 3. 戻し方:取り返しのつかない操作はどれか
  4. 4. やらなくていいこと
  5. 5. 1週間:台帳1枚にまとめる
  6. 6. 社長への報告の型(3行)
  7. 7. 確認表
  8. 出典(取得日: 2026-09-20)

1. 1日目:止まると困る物の「期限」と「鍵の所在」

下の10個を、上から順に。分からない欄は空けたまま進み、「分からない」と分かったことを成果にします。

#物確かめること手がかり
1ドメイン期限、登録事業者、名義、通知先のアドレス登録データ検索(lookup.icann.org/JPRS WHOIS)、請求書
2サーバ(サイト)契約先、期限、支払い方法カード明細、事業者からのメール
3メールどの事業者か、管理者は誰かdig +short example.com MX
4グループウェア(Microsoft 365/Google Workspace)管理者の権限を持つのは誰か。何人いるか管理画面の管理者ロールの一覧
5インターネット回線・プロバイダ契約者名、問い合わせ番号、ルーターの管理画面の鍵請求書、機器のラベル
6複合機保守の連絡先、リース満了日、管理者パスワード本体のシール、リース契約書
7NAS・ファイルサーバ管理者の鍵、保証・保守の期限管理画面、購入時の書類
8バックアップどこへ、いつ、最後に成功したのはいつかバックアップの画面の履歴
9ライセンス(会計・CAD・ウイルス対策など)更新日、契約者のアカウント更新の通知メール、明細
10パスワードの記録場所前任者はどこに記録していたか本人に聞く。個人のブラウザやスマホの中なら要注意

3番のメールの事業者は、「このドメインあてのメールをどこへ届けるか」を書いた行(MXレコード)を見れば分かります。見るだけで、何も変わりません。Macならターミナルで下の1行、Windowsなら nslookup -type=MX example.com。コマンドを打たないなら、ブラウザで Google Admin Toolbox の Dig(toolbox.googleapps.com/apps/dig/)を開き、ドメイン名を入れて MX を押します。このサイト(it-techo.com)の例です。

$ dig +short it-techo.com MX
45 route3.mx.cloudflare.net.
11 route1.mx.cloudflare.net.
95 route2.mx.cloudflare.net.

答えに入っている名前(ここでは cloudflare)が、メールを受けている事業者です。outlook.com なら Microsoft 365、google.com なら Google Workspace、レンタルサーバー会社の名前ならサーバ付属のメールです。

私が1日目に必ず見るのは4番と10番です。 理由は、この2つだけが前任者の退職と同時に失われうるからです。よくあるのは、グループウェアの管理者が前任者1人だけ、しかも2要素認証が前任者の個人のスマホに結び付いている形です。退職の翌月、新入社員のアカウントを作ろうとして初めて、誰も管理画面に入れないことに気づきます。パソコンも同じで、ディスクが暗号化されていて回復キーの所在が分からなければ、パスワードを知る人がいなくなった時点で中のデータは取り出せません。

前任者が在職中なら、今日これを送ります。

件名:IT関連の引き継ぎのお願い(30分ください)

○○さん

お忙しいところすみません。最終出社日までに、下の点だけ教えてください。
設定の中身の説明は要りません。「どこに何があるか」だけで十分です。

1. 管理者としてログインしている先の一覧(ドメイン、サーバ、メール、
   グループウェア、ルーター、複合機、NAS、バックアップ、各種ライセンス)
2. それぞれのIDとパスワードの記録場所。2要素認証がどの端末に入っているか
3. ○○さん個人のメールアドレス・カード・スマホで登録している物があるか
4. 困ったときに連絡している業者と担当者の名前
5. 「これは触らないほうがいい」と思っている物

一緒に画面を見ながら、私のアカウントにも管理者権限を付けてもらえると助かります。

すでに退職しているなら、同じ内容を短くして送ります。ただし、退職した人に協力する義務はありません。1回だけ丁寧に頼み、返事が無ければ、各サービスの事業者へ「管理者が退職してログインできない。会社として再設定する手続きと必要書類を教えてほしい」と問い合わせます(文面は 制作会社と連絡が取れなくなったとき の3節を、委託先を前任者に読み替えて使えます)。責める文面にしないこと。返事が来る見込みを自分で下げるだけです。

2. 3日目まで:自分でも入れる状態にする

やること理由
グループウェアに、自分の管理者アカウントを足す。管理者は2人以上にする1人しか入れない状態が事故の元。その1人が辞める、スマホを失くす、で誰も入れなくなる
ドメイン・サーバの通知先に、担当が替わっても読める共有アドレスを足す更新の通知が退職者の受信箱で止まるのを防ぐ
前任者の個人アドレス・個人カードで登録された物を、会社の物に替える手続きを始める本人がいるうちでないと、本人確認が通らない
2要素認証を、自分の端末にも登録する。回復用コードを控える前任者のスマホと一緒に鍵が消える
鍵をパスワード管理の仕組みに入れる次の引き継ぎを、自分が同じ目に遭わせない

前任者のアカウントは、消さずに止めます。 パスワードを変えてサインインを止め、メールは転送か共有に切り替え、削除は後日です。消すと、その人が持ち主だったファイル、その人のアカウントで動いていた自動処理、その人宛てに届く更新通知が一緒に消えます。順番と戻せる日数は次の記事に書きました。

→ 退職者のアカウント、消す前に止める。最終出社日にやる順番 / パスワード管理と2要素認証の進め方

バックアップは、画面の「成功」を信じず、ファイルを1つ実際に戻してみます。 前任者がいなくなった後で「戻せないバックアップだった」と分かっても、聞ける相手がいません。

→ 翌日から仕事に戻れるバックアップの組み方

3. 戻し方:取り返しのつかない操作はどれか

操作戻せるか
管理者を足す、通知先を足す戻せる。足すだけなら何も壊れない
アカウントのサインインを止める戻せる。止めたのを解除するだけ
パスワードを変える戻せないが害は小さい。ただし、そのアカウントで動いている機器や自動処理が止まることがある(複合機のスキャン送信、バックアップの保存先など)。変える前に、何がそのアカウントを使っているかを聞く
アカウントを削除する期間内なら復元できるサービスが多いが、期間は事業者しだい。最初の1週間ではやらない
契約を解約する、機器を初期化する戻せない
ルーター・NASの設定を変える変える前の設定を書き出していれば戻せる。書き出していなければ戻せない

足すのはよい、止めるのもよい、消すのと替えるのは来月。これが1週間の線引きです。

4. やらなくていいこと

いきなり構成を変えない。 引き継いだ直後は、古い機器や不思議な設定が目に付きます。でも、なぜそうなっているかを知らないうちに直すと、理由があった設定を壊します。私は、引き継いで1か月は、台帳に「気になる点」として書くだけにします。

業者の提案に、その場で乗らない。 担当が替わったと知ると、「この機会にサーバを」「NASが古いので」という提案が来ます。善意のことも多いのですが、いまの自分には要るかどうかを判断する材料がありません。こう返します。

ご提案ありがとうございます。担当を引き継いだばかりで、現状の把握を先に進めています。
  月  日以降にあらためて検討しますので、下の3点を書面でいただけますか。

1. いまの構成のままだと、いつ、何が起きるのか(保守期限などの日付つきで)
2. 見積もりの内訳(機器、作業、月額を分けて)
3. 入れ替えない場合に、最低限やっておくべきこと

3に答えてくれる業者は、長く付き合える業者です。

→ 30人の会社にActive Directoryは要るか

全部のパスワードを一斉に変えない。 気持ちは分かりますが、3節のとおり、何が止まるか分からない状態でやる作業ではありません。変えるのは、前任者個人が知っている管理者の鍵からで、1つずつ、業務時間中に、止まったらすぐ気づける形でやります。

勧めないのは、「前任者に聞けばいい」を当てにして台帳を後回しにすることです。 退職後に連絡がつくのは、せいぜい最初の数週間です。

5. 1週間:台帳1枚にまとめる

表計算ソフトで1枚。凝った様式は要りません。

物契約先契約の名義期限・更新日支払い方法管理画面のURL鍵の記録場所管理者(2人)通知先困ったときの連絡先気になる点
ドメイン
サーバ
メール
グループウェア
回線・ルーター
複合機
NAS・ファイルサーバ
バックアップ
ライセンス(1行ずつ)

パスワードそのものは台帳に書きません。書くのは「どこに記録してあるか」だけです。期限の列は、いちばん近い日付を自分の予定表にも入れます。

名義の列が制作会社や前任者個人になっている物が見つかったら、それが次の仕事です。

→ 自社のドメインなのに名義が制作会社だった / 制作会社と連絡が取れなくなったとき

6. 社長への報告の型(3行)

1. 把握できたこと:止まると困る物10個のうち  個は、期限と管理者を確認し、私も入れる状態にしました。
2. 把握できていないこと:(例:ルーターの管理画面、会計ソフトの契約者)は鍵の所在が不明です。  月  日までに事業者へ問い合わせます。
3. お願い:直近の期限は(物)の  月  日です。名義が(前任者個人/制作会社)の物が  件あり、会社名義へ替える手続きにご協力ください。

2を隠さないでください。「分からない物がある」と最初の週に言えるのは、引き継いだ直後だけです。

7. 確認表

#確認すること済
110個の物について、期限と鍵の所在を確かめた(分からない物は「不明」と書いた)□
2グループウェアの管理者が2人以上いて、その1人が自分□
32要素認証が前任者の端末だけに結び付いた物が無い□
4前任者の個人アドレス・個人カードで登録された物を洗い出した□
5ドメイン・サーバの通知先に、共有のアドレスを足した□
6前任者のアカウントは、消さずに止めた□
7バックアップから、ファイルを1つ戻してみた□
8台帳1枚を作り、いちばん近い期限を予定表に入れた□
9社長に3行で報告した□
10構成の変更と業者の提案は、来月以降に回した□

出典(取得日: 2026-09-20)

1日目・3日目・1週間の区切り、「1か月は構成を変えない」は、規格や公式の定めではなく筆者の実務上の目安です。

この記事は特定の製品の使用レビューではありません。公式仕様と公的情報をもとに整理しています。 ・仕様の取得日

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